2021.09.27

リモートワークでも社員のモチベーションが上がる組織をつくるには? データの見える化から人材育成を考える

長引くコロナ禍により、リモートワークの存在が当たり前になりつつある昨今。人々の働き方が大きく変わったことで、マネジメント層に求められる力も、少しずつ変化しています。リモートワークをする中でも、従業員のモチベーションをどうやって維持するか? 組織としてパフォーマンスを高めるにはどうすればいいのか?

そこで注目したのが、人材プラットフォームを提供する株式会社サイダス。この時代だからこそ考えたい人材マネジメントのあり方について、サイダス代表の松田晋さんにトレノケートホールディングス代表取締役社長の杉島泰斗がお話を伺いました。

 

※本記事は、取材時(2021年)の情報を基に執筆しています。

取材先のプロフィール

松田 晋(まつだ しん)氏

株式会社サイダス 代表取締役

大塚商会、人事と組織コンサルティングの事業会社設立を経て、単身渡米。最先端のタレントマネジメントシステムを研究し、2011年10月に株式会社サイダスを設立。「明日が楽しみになる世界をつくる。」をミッションに、「データを介して人と組織を可視化する」クラウドサービスを展開中。

インタビュアー

杉島 泰斗(すぎしま たいと)

トレノケートホールディングス 代表取締役社長

熊本県出身。東京工業大学を卒業後、SCSデロイトテクノロジー、不動産ポータルサイトLIFULL HOMES、株式会社クリスク 代表取締役を経て現職。

INDEX

目次

経営者が人材データを見ると、新しい社内制度が生まれる

人事ではなく、社員目線でシステムをつくる

理想は、会社にとって必要な仕組みが社員の側から自然に生まれること

経営者が人材データを見ると、新しい社内制度が生まれる

杉島

トレノケートの主な顧客はIT関連企業で、とりわけIT/DX人材育成の検討をしている人事の方々とコミュニケーションをとる機会も多いんです。その意味でも、サイダスさんの事業は興味深いと思っていました。

松田

ありがとうございます。サイダスは、会社の中でばらばらになっている人材情報を一元化・見える化し、人材のマネジメントを効率化するサービスを提供している会社です。

既存の人事システムや人材情報にプラスして、本人の希望やポテンシャルも吸い上げる。そうして、人材配置や育成の最適化をサポートしています。

同社が提供するサービスの1つ「CYDAS PEOPLE」。採用や人材配置、対話、キャリアプランニング、心理的安全性向上などの実現をサポートしている。

杉島

コロナ禍でリモートワークが増えました。松田さん自身、人材マネジメントのあり方にも変化があったと感じますか?

松田

はい。ビデオ会議で社員の顔は見えても、勤務状況は見えづらくなりましたよね。その反面、HRツールやチャットなどのテキストコミュニケーションによって仕事のアウトプットの見える化が進みました。つまり、よく働く人とそうでない人が浮き彫りになった。実はこの差は、社員を信頼せず、管理しすぎているから起こってしまうんです。

杉島

どういうことですか?

松田

本来、役職に関係なく、社員一人ひとりが担当している業務に責任を持つ「リーダー」であるはずです。しかし、信頼されていない社員には責任ある仕事を任さない。すると、会社全体が「言われたことをやる文化」になってしまうし、何よりも社員側もモチベーションが上がりません。

だから人材データを扱うときは、単に人と名前が見えればいいわけではなくて、どんな仕事をどれだけ担当しているかなどを含めた「現在の状態」を把握することが重要なんです。

松田 晋(まつだ しん)氏 株式会社サイダス 代表取締役。2011年10月に株式会社サイダスを設立。「明日が楽しみになる世界をつくる。」をミッションに、「データを介して人と組織を可視化する」クラウドサービスを展開中。

杉島

データが可視化されることで、「そもそも部下に仕事を渡していなかった」こともわかるんですね。

松田

はい。人材データは、ただ見える化するだけでは意味がありません。大半の場合、データを見ているのはせいぜい人事部どまり。つまり、経営者は人材データを見ていないケースがほとんどなんです。

でも本来は1人あたりの生産性や活動量をチェックしながら、経営者が社内の仕組みをアップデートしていかなければなりません。我々が取り組んでいるのはまさにその部分で、数あるサービスの中でも経営者によく使われている点は、サイダスの大きな特徴だと思います。

杉島

人材データを経営者視点に合わせることで組織改革に役立たせる、と。経営者の意識も変わりそうですね。

杉島 泰斗(すぎしま たいと) トレノケートホールディングス 代表取締役社長。熊本県出身。東京工業大学を卒業後、SCSデロイトテクノロジー、不動産ポータルサイトLIFULL HOMES、株式会社クリスク 代表取締役を経て現職。

松田

その通りです。経営層が人材データに目を向けはじめると、それまで「管理」が業務の大半になっていた人事担当者のリソースが「企画」に割けるようになります。その結果、社内に新しい制度が生まれやすくなるんですよ。

従来は年功序列中心だった銀行が、能力や実績に応じた「グレード給」を取り入れ始めたケースもあります。もちろんうちのツールだけの功績ではありませんが、象徴的な変化ですね。

杉島

それは面白い。経営層と人事部の両方がデータを見ていたからこそ、起こりえる変革ですよね。

松田

はい。たとえば、残業がやたら多いのに成果があがっていない部署があるとすれば、経営者は何か手を打たなければならないでしょう。しかし、財務データだけを見ていても、そうした社内の事情を読み解くことはできません。人材と活動データを見える化したからこそ、適切な施策を考えられるわけです。

杉島

こうしたシステム導入に対しては、コストが障壁になることも多いですよね。でも長期的に見れば、経営が効率化されることで十分にペイできる、と。

松田

そうですね。だから本当のことを言えば、まずは社内ですでに導入しているツールが実際にどれだけ使われているかを見える化すべきなんですよ。きっと多くの無駄が生じているはずですから。

杉島

それは、あるあるです!

人事ではなく、社員目線でシステムをつくる

杉島

コロナ禍でリモートワークが広がると、人材育成のあり方も大きく変わりました。そのあたりは、どう考えていますか?

松田

まずはそれぞれの業務に求められるスキルを明確化し、人材が持っているスキルと照らし合わせて、何が足りていないのかを可視化することが必要です。すると、定められた期間に何を覚えればいいのか、課題が明確になる

すると、「足りないスキルがあるけど、なんとなく業務をこなせている」という状態がなくなるんです。

杉島

人事担当者や上司の視点では、必要なスキルの習得レベルなど、人材育成の進捗率もがわかりやすくなりますね。それと連動して、上長の主観に偏った評価も減りそうです。

松田

そうなんですよ。コロナで働き方が変わったので、評価制度も変えなければなりません。日本の企業では従業員本人に上期・下期の目標を立てさせて、それに対する評価を半年後に行う……のが主流でしたよね。しかし、本人も会社も、半年の間にガラッと変化する時代です。

そうなると、定期的に評価を受けるのではなく、リアルタイムにどんどん評価される形が理想。その意味で、日本の評価制度を根本から変えるのも、我々の目標の一つなんです。

杉島

コロナになってから、制度やツール、組織作りも大きな変化が求められるようになりましたね。これまでの評価の考え方とは大きくアップデートされそうです。

松田

従業員がスムーズに新しいツールやシステムに馴染めるようにするには、いちいちデータの入力をさせないことが大切なんです。入力は手間で負担になりますし、人事からやるように言われてもなかなか習慣化しません。そうではなく、毎日の業務を通してリアルタイムで自動的に評価がされていく。いまは、そういうシステムを開発している最中なんです。

杉島

すごいですね。もっとも、入力しなくても毎日評価され続けるシステムというのは、なかなか一概に想像し難いものがありますが……。

松田

想像できないものをつくらなければ、新たな価値は生み出せませんから。大切にしているのは、人事目線ではなく、社員目線でシステムをつくること。実際にそのシステムに触れたすべての方から使用感をヒアリングして、使いにくい部分はどんどんアップデートしていく方針です。

理想は、会社にとって必要な仕組みが社員の側から自然に生まれること

杉島

ところで、リモートワークが中心になると、新しく入ってきた人材と既存の人材の交流機会が減りました。それがパフォーマンスの低下に直結するケースもあると思いますが、どうマネジメントするのがベストだと考えていますか?

松田

たしかにリモートワーク中に、コミュニケーションを活性化したいというニーズはあるんですよ。ただし、そこで本当に求められているのは、人を成長させるコミュニケーションであって、ただ膝を突き合わせてたくさん話ができればいいというものでもありません。

本当に人がやりがいをもって楽しく働ければ、成長を伴うはず。人材データを効果的に使ってそうした環境を実現できれば、コミュニケーションが問題視されることもなくなるのではないでしょうか。

杉島

そうですね。これはコロナ禍でリモートワークが主体になったこととは無関係に、日本の企業が改善していかなければならないテーマでしょうね。

松田

サイダスにしても結局、人事のためのツールではあっても、本当の目的は社員が頑張れる仕組みをつくることです。

それぞれが望むことやアイデアが、ちゃんと人事部にフィードバックされ、環境やシステムの改善が実現すれば、やりがいをもって働くことにつながるはずなんですよ。自分たちで考えたやり方なんですから。

杉島

そうですね。これはコロナ禍でリモートワークが主体になったこととは無関係に、日本の企業が改善していかなければならないテーマでしょうね。

松田

いまは、会社の中での信頼関係が築きにくい時代です。オンライン化やテレワーク導入が声高に叫ばれていますが、実際のところ、すべての会話をチャットにするのは不可能ですし、メンタルを削られる人も出てきてしまうでしょう。だからこそ、顔を突き合わせてコミュニケーションをとることの大切さも忘れてはいけません。

杉島

確かにフィードバックなども、チャットで受け取るか、直接聞くのかで受ける印象も大きく異なりますよね。

松田

はい。だからこそ、心と心が通じあえるように、人間同士のコミュニケーションを活性化させる「データの見方」を考えないといけないと強く思います。

それで、いいチームができれば、モチベーションが上がる。いわゆる「やっつけ仕事」じゃなくなり、工夫や改善がされていく。そうやって人とのつながりを大切にすることが、結果的に大きな成果や長期的な成長にも繋がっていくんじゃないでしょうか。

(取材・執筆:友清哲 撮影:小野奈那子 編集:鬼頭佳代/ノオト)