2021.10.26
優れたリーダーの「条件」を考える
会社において、社長1人でできることには限界があり、そのために組織が存在します。組織やメンバーの力を最大限に引き出すには、トップが優れたリーダーであることが必要不可欠です。
では「優れたリーダー」に求められる資質やマネジメントスタイルとは、どういうものなのでしょうか。そして、次のリーダーを育てるにはどうすればよいのでしょうか。
そこで、ザ・ボディショップやスターバックスでCEOを務め、『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』(サンマーク出版)などの著書を持つ、岩田松雄氏にお話を伺いました。聞き手はトレノケートホールディングス代表取締役の杉島泰斗です。
※本記事は、取材時(2021年)の情報を基に執筆しています。
取材先のプロフィール
岩田 松雄(いわた まつお)氏
株式会社リーダーシップコンサルティング代表取締役社長
立教大学教授、早稲田大学講師。1958年生まれ。大阪大学経済学部卒業後、日産自動車に入社。セールスマンから財務に至るまで幅広く経験し、UCLAアンダーソンスクールに留学。
外資系コンサルティング会社、日本コカ・コーラ役員を経て、ゲーム会社アトラスの社長として3期連続赤字企業を再生。プリクラで有名なアトラスを再生させ、ザ・ボディショップでは売り上げを約2倍に拡大させる。
2009年、スターバックスコーヒージャパンのCEOに就任。ANAとの提携、新商品VIAの発売、店舗内Wi-Fi化、価格改定など次々に改革を断行し、業績を向上。UCLAよりAlumni 100 Points of Impactに選出される(歴代全卒業生3万7千人から100人選出)。主な著書に『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』(サンマーク出版)、『ミッション 元スターバックスCEOが教える働く理由』(アスコム)など。最新刊は「今までの経営書には書いていない 新しい経営の教科書」(コスミック出版)
インタビュアー
杉島 泰斗(すぎしま たいと)
トレノケートホールディングス 代表取締役社長
熊本県出身。東京工業大学を卒業後、SCSデロイトテクノロジー、不動産ポータルサイトLIFULL HOMES、株式会社クリスク 代表取締役を経て現職。
INDEX
目次
人を治める前に、自分自身を修める
本質的な問題を解決するために「一次情報」を得る
それぞれの持ち場で、日本をもっと元気にしていきたい
人を治める前に、自分自身を修める
杉島
名だたる企業でトップを経験された岩田さんにとって、リーダーに最も求められる資質は何だと思われますか?
岩田
いろいろありますが、究極のところ「私心を無くすこと」ではないでしょうか。自分の金儲けのためだとか、自分の評判を上げようとか、そういうことが見えたら社員はついてきませんよね。
杉島
おっしゃる通りですね。裏を返せば、「お客さんのため」「社員のため」であれ、と。
岩田
はい。人を治める前に、まずは自分を修めることが大切でしょう。
それに、いくら評判を気にしたところで、リーダーは何をやっても批判の的になるものです。フランクリン・ルーズベルト大統領の妻、エレノアの言葉に、「あなたの心が正しいと思うことをしなさい。どっちにしたって批判されるのだから」というものがあります。
本当に自分の中に私心がない、全ては社員やお客さんのためだと言い切れることができるなら、どんな批判も怖がらずに、正しいと思うことを貫けるはずだと思います。
杉島
「正しいと思うことを貫く」にあたり、マネジメントのスタイルもさまざまに分かれますよね。ワンマン型で引っ張るリーダーもいれば、メンバーに尽くしてから導くサーバントリーダーシップ的な人もいる。状況によってスタイルも使い分けるリーダーもいます。
岩田
そうですね。R.ハウスが提唱したパス・ゴール理論(※)では、最終的な目的や、環境にまつわる要因、どのような部下がいるかが、リーダーの行動スタイルに影響を与えるとされ、リーダーシップのスタイルを、大きく4つに分類しています。
-
指示型
与えられた課題を提示し、達成方法を具体的に示す。
-
支援型
メンバーのアイデアを尊重し、気づかいや配慮を示す。
-
参加型
決定を下す前にメンバーに意見を求め、提案を活用する。
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達成指向型
高い目標を示し、メンバーに全力を尽くすよう求める。
岩田
危機的状況の時にはスピードが求められるので、トップダウンで物事を決めていかないといけない。逆に順調な時には、できるだけ部下に任せていく。
また、新人に全てを任せても右往左往してしまうし、ベテランに細かく指示しても嫌がられるでしょう。自分を取り巻く状況に合わせ、良いリーダーはこの4つのスタイルを使い分けています。
杉島
私も昨年まで、10年ほどトレノケートのグループ会社の経営をしていまして、最初は参加型・支援型を意識していたんです。ただ、業績が厳しかった時期は、やはり指示型・達成指向型にならざるを得ませんでした。
岩田
そういうことですよね。とはいえ、切り替えが難しいケースもあるでしょう。昨日までトップダウンだった社長が、手のひらを返して「みんなの意見を聞きたい」と言いだしても、社員は不安になるでしょうし、普段ニコニコしている社長がいきなり鬼にはなるのも難しい。
ですから、自分と違うタイプの参謀を置くことも大切です。
杉島
それぞれが得意とする「リーダーシップの型」がありますからね。
岩田
だから、私がベンチャー企業を手伝うときは、「岩田を悪者にしていいよ」と社長にあらかじめ言っておくんです。「あの人(岩田)がうるさく言ってくるんだ」とうまく使えば、社長も周りに厳しいことを言いやすいでしょう?(笑)
自分が弱いと思うところは手伝ってもらいながら、状況に応じて「リーダーシップの型」を柔軟に変える。それが良いリーダーの条件の一つではないかと思います。
※パス・ゴール理論:リーダーシップ条件適応理論のひとつ。「メンバーが目的や成果(ゴール)に到達するために、リーダーはどのような道筋(パス)をたどればよいか把握し、働きかけるべき」という考えに基づき、リーダーシップを定義したもの。
本質的な問題を解決するために「一次情報」を得る
杉島
経営者として社内のリーダーを任命するとき、先ほど挙げられた資質などを評価することになると思います。岩田さんご自身は、これまでリーダー候補をどのように評価されてきたのでしょうか?
岩田
人の評価は難しいですよね。昔は「自分は人を見る目がある」なんて勝手に思っていたんですが、いっぱい失敗をしてきました。
私から見るとすごく優秀な人でも、その人の部下の意見を聞いたらそうでもなかったりするわけです。自分が上司のイエスマンであると同時に、部下にもイエスマンを求めて偉そうに振る舞っていたりする。採用に関しても、評価に関しても、「自分の目は節穴だ」と思っていないといけませんね。
杉島
わかります……。私も、何度も痛い思いをしました。
岩田
そうでしょう? 経験しないと分からないですよね。ビジネスでは、「まさか」と思うようなことが、実際に起こりますから。
上から見たその人の評価と、下から見た評価、横から見た評価は違うことは往々にしてあります。だからとにかく、いろんな人の意見を聞くことですね。
当時は、部下の部下まで意見を聞くようにしましたし、自分の秘書にも「あの人はどう?」と聞くようにしていました。できるだけ多くの情報を集めたいからこそ、現場にも行っていたんですね。
杉島
岩田さんが書かれた『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』(サンマーク出版)でも、現場を訪れることの大切さが語られていましたよね。
岩田
はい。ザ・ボディショップでも、スターバックスでも、時間の許す限り店舗を訪問し、現場とコミュニケーションを図るようにしていました。店舗こそ会社を支えている場所ですし、現場の「一次情報」を得たかったんですね。社長になると、現場のリアルな状況はなかなか入ってこなくなりますから。
杉島
その一次情報は、どのように活用されていたのでしょうか。
岩田
店舗の電球が一つ切れていたとしましょう。そのとき、店長に「なんで電球を変えないんだ」ともちろん怒ることはしません。きちんと理由を聞けば「本社に交換を頼んで1カ月になるのに、まだ対応されていない」ということがわかったりするわけです。
そうなると、これは仕組みの問題です。もしアウトソーシング先の対応が悪いなら、会社を変える必要がある。本部の人手が足りなくて対応できないなら、人を増やさないといけない。なにより、他の店舗でも同じことが起きている可能性もあります。仕組みの問題を解決するのは、リーダーの仕事です。
杉島
現場で得た情報を、本質的な問題を解決するための材料とするのですね。
岩田
逆に、たとえば店舗の人事に口を出したりすることはありません。ワンマン型のオーナーだと、その場で店長を首にすることもあるでしょうが、それは組織の論理に反します。店長に対する人事権を持つのはその上長であり、そこは飛び越えてはいけませんからね。
それぞれの持ち場で、日本をもっと元気にしていきたい
杉島
この記事を読んでいる方のなかには、もっとリーダーシップを身につけたいという方も多いのでは思います。岩田さんご自身は、どのように自身のリーダーシップを育まれてきたのでしょうか?
岩田
これは「自分でリーダーの経験をしてみるしかない」に尽きます。社長のやりがいや大変さは社長になってみないとわかりません。もちろんリーダーに関わる本を読むのもいいでしょう。しかし、実体験には敵いません。知識を得たうえで、失敗して、痛い目を見て、とにかく経験すること。それが一番ですよ。
杉島
では、岩田さんが特に印象に残っている「失敗」はなんですか?
岩田
今まで色々なリーダー的役割を引き受けてきましたが、一番大変だったのはマンション管理組合の副理事をやったときですね。理事長が欠席したときに、経営会議のようにビジネスライクに物事を進めていこうといつもの調子で仕切っていたら、すごく批判を受けました。
杉島
いったい何が起きたんですか……?
岩田
その場で多数決をとったり、ズバズバと仕切ったりしたことで、他の理事に「自分の話を聞いてくれない」「意見を無視された」という印象を与えてしまったのでしょうね。管理組合には、自営業の方もいれば主婦の方もいます。全員が企業の物事の進め方に慣れているわけではないことを、念頭に置いていなかった。
管理組合では、会社の論理が通用しない。ましてや上下関係もない。今までで一番、リーダーとして大変だった経験ですね。もちろん、実際の経営ではもっと大変なことは山ほどありましたが。ですから、飲み会の幹事でも、ボランティア組織のリーダーでも、リーダーシップを鍛えられる機会はいくらでもあると思いますよ。
杉島
前回、岩田さんは「人を育てる、リーダーを育てることを自分のミッションにしている」と仰っていました。でも、岩田さんほどの実績を残したのなら、その後はゆっくり過ごそうと考えてもおかしくないと思うんです。そこまで岩田さんを突き動かすモチベーションは、どこにあるのでしょうか?
岩田
「人を育てる、リーダーを育てる」というミッションには、実はもうひとつ上位概念があるんです。それは「この素晴らしい日本をもっと素晴らしい国にしたい」ということです。
でも、そのために良きリーダーが不足している。リーダーを育てる教育も足りていない。この日本をいい国にするためには、もっとリーダーを育てないといけない。自分の今までの貴重な経験を活かし、多くの良きリーダーを育てていきたいと思っています。
その手段として、経営者のコーチングをしたり、企業研修をしたり、本を書いたり、講演をしたり、ビジネススクールで教えたりしていています。今までの貴重な経験を社会に還元したいという思いからなんです。
杉島
そうなんですね。実は私も、「日本を元気にしたい」とずっと思っているんです。東南アジアで展開している子会社があるので、現地にもよく行っていたのですが、街中にいる人たちがみんな元気なんですよ。目がキラキラして、輝いている。日本に帰ってくると、すごくギャップを感じてしまって。
岩田
わかります。
杉島
どうにかしたいと思っていたところに、トレノケートホールディングスの社長になることになりました。IT人材育成を進めれば、まさに日本を元気にできるのではないかと思ったんです。
岩田
日本も日本人も本当に素晴らしい。でも、もっと素晴らしい国にしたい。私も一隅を照らす気持ちで臨んでいます。お互いそれぞれの持ち場で、目の前の人に対して一所懸命やっていきましょう。その結果が回り回って、日本をもっと良くすることにつながるでしょうから。
(取材・執筆:井上マサキ 編集:鬼頭佳代/ノオト)