2023.06.15

観光業からITエンジニアへとキャリアが転進した事例 – 田中淳子の『人材育成』応援ラジオ 書き起こし

本記事では、トレノケート株式会社で配信しているVoicy番組  田中淳子の「人材育成」応援ラジオ から、好評をいただいた放送をピックアップして文字としてお届けします。

音声でお聞きになりたい方は、Voicy内チャンネル をご覧ください。

 

田中淳子の「人材育成」応援ラジオ とは

パーソナリティは、人材育成に携わって37年、人材教育シニアコンサルタントの田中淳子が務めます。自社の人材育成を考える上でヒントとなるようなちょっとした知識やスキル、具体例など、人材育成にご興味・関心がある方向けに役立つヒントを毎日約15分でお話ししています。

 

第3回となる今回は、トレノケート株式会社の社員との対談回 #167 自分の実力を他者に認めてもらうための「認定」や「資格」。観光業からITエンジニアへとキャリアが転進した事例。 を取り上げます。

対談形式で、現在Amazon Web Services (AWS)の認定トレーナーとして活躍する山下光洋のキャリアについて、前後編の2回に分けてお届けします。

 

※なお、読みやすさを意図して、会話の内容、趣旨を変えずに表現などを一部変更しています。

INDEX

目次

違和感を放置せず、自ら改善に動いた新卒時代

独学ゆえに立ちはだかった壁で、認定や研修の必要性を知る

資格取得はゴールではない

違和感を放置せず、自ら改善に動いた新卒時代

田中

今日は同僚の山下さんにお越しいただきました。よろしくお願いします。

山下

よろしくお願いします。

山下光洋と申します。トレノケートで、AWSというクラウドサービスの講師を担当しています。

先日の対談に出演した三浦美緒さんの後輩となります。

田中

現在、講師としてどのような活躍をしていますか?

山下

年間1,500人ぐらいの方に受講いただいてます。

AWS Japan様で、日本国内のインストラクターのアワードに2018、2019、2020年と選んでいただきました。3年連続で選ばれたので、今はもう自分は選考対象外になっています。

田中

殿堂入り、ということでしょうか。

山下

そういう風に言って頂けています。

田中

他にも、本もたくさん出していますよね。何冊ですか?

山下

日本語では4冊出していて、ほかに香港・台湾版が1冊あります。それも合わせると5冊ですね。

田中

すごい。年に1、2冊のペースで出していませんか?

山下

そうなんです。2021年は2冊出したんですよ。2022年はちょっとさぼろうと思って、ゼロ冊でした。2023年の1月に次の本が出版されます。

田中

トレノケートは元々執筆している社員が多くて、私も本を出している一人です。社名も広がるしアウトプットはもちろんいいよ、ということで山下さんも入ってきていただいた、と。

入社された当時から「すごい人が入ってきた」って社内みんなで喜んでいたのですが、その後も山下さんはすごく活躍されていて、認定も数多く取っていますし、先ほどの殿堂入りになるほど高いレベルの講師として認められています。そんな山下さんは、「自分から学ぶ」ことを過去からずっと続けてきたそうなので、どう学んできたのか、教えていただけますか?

山下

はい。私の新卒時代が少し特殊でして、ちょうどバブルがはじけた後に学生をしていて、その後、就職でした。

最初の仕事のミッションは売れ残ったリゾートマンションをホテル化することでした。もともと旅行業のアルバイト経験があったので、それがあって採用されました。

そのリゾートホテルの運用を波に乗せるために行ったのですが、ほとんど何もできてないようなところでかろうじて営業している、というような状態でした。自分の役職としてはサブマネージャーだったので、新卒から権限を持ってやっていました。

田中

新卒で、いきなりサブマネージャーですか。

山下

そうなんです。当然、社会経験もビジネスのノウハウも何もなかったので、やって壁にぶつかって対応して、の繰り返しでした。

田中

その時点ではITの仕事ではないんですね。

山下

はい、ホテルの営業でした。

調べる文献もそんなに無いので、経験して試すほかになかったのですが、旅行業界でアルバイトしていたことで、ホテルの人たちはどんな動きをしているか、その裏側のことなどはある程度分かっていました。例えばフロントの仕事内容ですとか、レストランの動きですとか、その連携などですね。そうした、自分が見たことがあること、体験したことを当てはめて対応していました。

あとは、その現場で当たり前になっているけれど、よく考えたらおかしいな、という点を改善していきました。例えば、そのホテルでは毎年、夏や冬のピーク時期は、夜中12時を過ぎても洗い物が終わらない、ということが起こっていました。

田中

それは、厨房で?

山下

はい、厨房です。それは1つの洗い場でやっているからで、設備の限界があるのでそうなってしまうのは当然の結果でした。ですので、他にもシンクがある部屋がたくさんあるので、それを全部使って分散させました。

田中

新卒1年目の時のお話ですか?

山下

1年目の夏でした。

田中

それはすごい!

山下

まずは自分から、積まれている洗い物を隣の部屋に持っていき、洗って片付けるところから始めました。自分で動いてから、「みんなも手が空いているなら同じようにしてください」とお願いしました。

その時もお願いするだけではなく、自分は働くけど他の人にはちゃんと休憩に入ってもらうとか、周囲の人に認めてもらうための行動も起こしていました。認めてもらわないと、言うことも聞いてもらえませんから。

それで改善していって、最終的には夜10時には片付けが全て終わるようになりました。

田中

まさに率先垂範(*)ですね。

言われたままに動くのではなくて、仕事のここがおかしいんじゃないか、という点に目をつけて、どうすればみんながより楽になるか、働きやすくなるかを、新卒の時から考えて実行していた、と。

*人の先に立って行動し、模範を示すこと

山下

そうですね。そうしないと自分自身の納得がいかない性分みたいです。

あとは単純に、自分が遅くまで働いて嫌だったんです。早く終わるためにどうしたらいいかなと。

田中

なるほど。

その経験で試行錯誤の学びが、どう連続して今に至るのでしょうか。

山下

今のは最終的に成功した例でしたが、その成功例に行くまでにも試行錯誤がありました。急いでいつもと違うプロセスにしたら器が割れる頻度が上がるなど、新たな課題に対応することで違うミスが発生する、ということもよくありました。

ミスとしてよく発生していたのが、フロントからレストランに対してのオーダーの伝達ミスです。予約に応じて厨房は調理するのですが、情報の伝達間違いが起きて誰も食べることのないコース会席料理が20人前できてしまうということもありました。勿体ないですが、捨てざるを得ない。こうしたロスはなくしていかなければ、と思いました。

とは言え、たまたま本社から来た部長がそれを見たら激怒するのですが、怒鳴り散らすだけで何一つ改善策を出してこない。ですので、ちょうどそのホテルのフロントにも導入されたパソコンを使って、Microsoft Accessを使ってデータベース化を進めていきました。当時、Windows95が出てきた年でもあったんです。

田中

ITはその前にやってたんですか?

山下

やってないです。完全に独学でした。

田中

ということは、Microsoft Accessみたいなものを使えばどうにかなるかも、と思って手を付けた、ということでしょうか。

山下

そうです。幸い、先輩に1人そうしたことがすごく好きな人がいたので、その人に教えてもらうことができました。その先輩は大阪本社、私は城崎にいたので、電話でしたが。

データベースって、1つのデータを入力するとそこから色々な形のアウトプットができるんです。予約のデータからレストランのオーダー表を作れて、しかも予約とオーダー表で同じデータを使っているので、間違いようがない。これはすごいなと思いました。

田中

それもまだ入社当時の話ですよね。

山下

そうですね、23歳の時でした。

田中

ここまでで既に盛沢山ですね。それでは続いて、そこから現在40代後半に至るまでのところを聞いていきたいと思います。

独学ゆえに立ちはだかった壁で、認定や研修の必要性を知る

田中

若い時「これはおかしいぞ」と気付いた部分を改善するマインドがあったというお話をここまでで伺いました。その中でITにも出会って、そしてその後はどうなっていったのでしょうか?

山下

その後もそれに味を占めて、改善を繰り返した結果、いくつか会社を転職していくうちに、ITの開発をメインの仕事とする会社に就職しました。

その時点で31、2歳ぐらいでした。

田中

ITを専門にしたのが、30代前半ということですね。

山下

はい。当時はいわゆるシステムインテグレーターとして、業務アプリケーションの開発に従事していました。

お客様の会社の情報システム部門のサポートや要件に沿った開発や、システムに問題やエラーが発生した際の調査と改善提案も含めた運用保守もやっていました。

お客様の中にはきちんと要件を出してくれない方や、調査の依頼だけでこちらの提案やアドバイスを聞いてくれない方、こちらから問いかけをしても何も返ってこない方などもいらっしゃいました。そういうことがある度、『世の中の情報システム部門さんたちは、なぜ問題解決のために働いてくれないんだろう?』と疑問に思っていました。

その後、リーマンショックの煽りを受けて当時勤めていた会社が倒産したこともあり、今度は自分が情報システム部の立場でやっていこうと思って、ITサービスを提供する側ではなく、利用する立場のに入社しました。

そこで、前々から何故やらないんだろう、と思っていたことに取り組んでいるうちに、AWSに出会いました。クラウドという技術を使えば、今まで困っていた色々なことが解決できると感じて、率先して採用していました。

 

そうした取り組みの途中で1つの転機になったのが、クラウド技術を全く知らない方が入社されて上長になったことです。その人に『山下君のその知識は独学なんですか?』と聞かれたのです。

私の答えとしては、『もちろん独学です。 自分で学び、調べて検証した結果、その設計やサービスを採用しています』という話をしました。しかし、相手である上司はクラウドの知識が全くないため、私が言っていることが正しいのか、私の提案を採用した結果、大きな問題を起こさないかの判断ができない。だから、独学ベースである以上は採用するわけにはいかない、という主旨のことを言われました。

それが本当に悔しかったので、その週末に認定を受けに行き、合格しました。そこで受けた認定はAWSという第三者的な判定で私の知識が間違いないという証明ですので、それを見せることで、私の提案を続けていいと認められた、ということがありました。

 

それまではずっと自分の独学ではあるけれど、実績を積み上げてきたつもりでした。ですが、特にそれが新しい技術だった時に、正しいやり方や知識かどうかという評価は自分だけでやっていても認めてもらうのは難しいんだなと実感しました。

田中

それは私も同意見です。『私はこれでベテランとして仕事しているから資格はなくてもいい』という方もいらっしゃるんですが、同じような仕事をしている人には実力者だと通じても、今お話に出てきた上司のようにその領域について詳しくない方にとっては、資格とか認定みたいな物があればその人が本物かどうかを判断することができます。だから勉強して済む事であれば、取りに行けばいいな、と思いますね。

多分ですが、山下さんもそこまでは認定とかそんなに重視していなかったのではないかな?と思いますが、どうですか?

山下

はい、実はそうでした。

認定を持っているとか試験に合格したことと、仕事ができることは別問題だとずっと思っていました。でも、そうではなくて、逆なんだと思います。技術や知識を持っていることを第三者に対して証明できるということが、より仕事を進めていくのに必要なんだろうな、と考えを変えました。

田中

そうですよね。資格を持っているから仕事がすごくできるとは限らないですけど、でも仕事ができることを証明するのに資格や認定でそれを伝えられるということが大事、ということですね。

それから認定をいろいろ取るようになったのですね?

山下

そうですね。認定の重要性が分かったのと、公式のドキュメントやコンテンツを学んでいくことも大事だな、と思いました。独学で学ぶ材料としても、そういったものを使っていけば公式の情報が押さえられる。そこがすごく必要だなということは、その当時実感しましたね。

今こうしてトレノケートで講師をやっているのも、そのあたりの経験や気付きがあったことが大きいです。多分、それ以前の自分であれば今の仕事は選んでいないです。

田中

それは、どうしてですか?

山下

研修に価値を見出していなかったからです。

当時は、勉強は自分でやるもので、仕事の時間内にやるものではないって本気で思っていたんですよ。なので、それを仕事の時間内に、しかも会社のお金を使ってやらせてもらうなんて夢のような話でした。そんな与えられる世界は、それほど価値がないんじゃないかな・・・ということを思っていました。

田中

でも、自分が認定を取ることで認められる経験を経て、そこに価値を見出したと。

山下

それもありますし、あとは、独学でまで勉強する人がほとんどいないですよね。

そういった中で、会社がお金を出して時間をかけることで、会社が社員が学ぶのを支援していること分かりやすく提示することは必要なんだと思います。

田中

なるほど。会社側がちゃんと投資している、機会を与えていることを示す意味もある。

山下

あとはそうやって時間を割り当てることによって、それが業務の時間になりますよね。そうすることで、その時間の使い方に責任感が生まれます。責任感を持って学んだ方が、集中力や吸収力は上がるのではないかなと思うんです。

仕事のプロセスに研修や学びが入ることで、ある意味半強制なんですけど、そこは独学の甘えとまた違う部分として提供できるんだろうと思います。

田中

業務時間に研修を受けるということは、それはもう業務そのものですから、受講者側にも、その時間内の生産性、つまり学習効果を高めることが求められることになりますね。

資格取得はゴールではない

田中

認定を取るのはよいですが、今度は実務で使うなどアウトプットにつながらないといけないですよね。その辺りについてもお願いします。

山下

はい、認定がゴールになるのは絶対良くないです。

その認定に合格しないとやらせてもらえない仕事がある、ということはありますが、それはスタートであってもゴールではないんですね。

認定のため、という動機はあったかもしれませんが、せっかく勉強したのであれば、実務に活かせる方が絶対に勉強自体も楽しいはずですし、より身について忘れないはずです。

そう考えると、一番いいのは、勉強や資格取得の先に関連した仕事が待っていること、勉強の目的として業務で活かす、という点が明確であることです。

もしそうではない場合は、例えば自分たちの身の回りのことを改善するための開発をやるなど、とミニプロジェクトを社内でやるのも手だと思います。

田中

それは会社が用意できればベストだけど、自分が企画して「こんなプロジェクトをやってみたい」「こういうものを試しに作りたい」とか提案してみるということですよね。

山下

そうです。

そのために、例えばAWSですと利用のためにアカウントが必要なのですが、それを会社が用意してあげてもいいですし、自分たちでそれを開設して経費精算するのも一つのアクションしてありではないでしょうか。

田中

ありがとうございました。

ちなみに、山下さんの新卒時代のことをご自分でもう少し詳しく書いている記事があります。とても面白いので、ぜひ読んでみていただければと思います。

若手の方にもぜひ読んでもらいたいお話ですので、周囲の若手社員にもぜひご紹介ください。

 

実戦で学んだ新入社員時代

https://blog.trainocate.co.jp/blog/ogiri01_022

 

後編では、学びをどうアウトプットしていくかについて、ご紹介します。